ツチノコと私
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・俺、裏門から入る」
 
声を掛けられたらたまったもんじゃないと思った俺は、遠回りしてでも安全圏に行きたくなった。
『アレ』と同類項だと思われたら、残りの学園生活はとんでもないことになる・・・!
 
「え、何で?」
「ちょっと持病の癪が」
「は?」
 
バカみたいな仮病を使い出した俺に、わけがわからない、という顔をしたジュンはもう一度校門を振り返った。
そしてピンときたらしい。
 
「もしかして、あの子が例の転校生?」
「!!」
「ははーん、もしかしてお前、昨日あの子に何かやらかしたんだろー」
「えー」
「その逆だ!俺は巻き込まれたの!!」
 
リュータくんサイテー☆と野次ってきたシンゴに、俺は怒鳴った。
俺は絶対的に被害者以外の何者でもないのだ!
 
「とにかく、俺は裏門に行く。お前らも来いよ」
「えー、めんどくせー」
「わざわざ裏門にまで回るほど深い事情があるのはわかった。でも何で俺たちまで」
 
ジュンの問いは至極当然である。
正門から裏門までの距離はかなりある。わざわざそっちまで行って入るバカはいない。
なので事情を説明しないと、二人とも得心がいかないだろうな・・・。
だけど。
『今正門から入ってアイツに見つかったら、問答無用でツチノコ研究会にひきずりこまれる』
なんて言って信じるアホはいるだろうか。
いや、シンゴはノリで信じる(フリをする)だろうが、ジュンは真面目なヤツだからなぁ。
あ、というか、アレだ、俺と一緒に中に入らなければいいんだ。
俺の友達だと知らなければ、別にツララだって平和な一生徒たる二人に魔手を伸ばしたりはしないよな。
もはや俺の安住の地と言っても過言ではない二人を、こんなところで失うわけにはいかないんだ・・・!
よし。
 
「お、俺ちょっとパン買ってから行くから、先行っといてくれ。ごめん!じゃ!」
「あ、リュータ!」
 
ジュンの声を背に、俺は裏門方面まで走った。
何でツララ一人のためにここまでやらなきゃなんないんだ、と思いながら。



 
「あらー・・・」
 
リュータが走っていった方向を眺めながら、シンゴは呆然とつぶやいた。
 
「行っちまった。どうしたんだかね、リューくんは」
「さぁ・・・・。何か思いつめたような顔してたけど」
「まぁリュータにもリュータたるリュータなりの所以というかそういうものが」
 
無茶苦茶なことを言い出したシンゴに、ジュンは呆れた顔をした。
 
「何言ってんだよ。・・・昼休みにでも聞きに行こうか」
「あ、ジュンちゃんが真剣〜。シンゴくんちょっとジェラシー。」
「お前は心配じゃないのか!
 
おどけたシンゴにジュンは怒鳴った。
真面目なジュンとボケのシンゴはちょうどいいバランスである。
 
「冗談だって。リューくんとは付き合い長いしね。たまには一緒に昼メシでも食そうよ」
 
そう言うと、シンゴは「ニッ」と笑った。よい笑顔である。
 
「うん。」
 
その顔に応えるように、ジュンも小さく笑った。
 
 
 
 
 
教室に入ると、さっき正門にいたはずのツララが、もう席に着いていた。
何でだよ。
どんだけ早いねん。
 
「・・・・・・・・・・・・はよ。」
「あ、おはよーリュータ。さっきまで校門でビラ配ったり出張相談所をやったりしてたんだけど、何故かみんな目も合わせないでとっとと行っちゃうからさぁ。早々に引き揚げてきたってわけ」
「それにしちゃあ早すぎだろ。お前足早いの?」
「今日はいい天気ねぇ」
「人の話を聞け!!」
 
自分で振った話なのに、コイツは面倒くせぇという顔をして、言った。
 
「あたし縮地が使えるの。故に超神速なの☆」
「違うジャンルの話をすな!」
「えー、今またわりと旬になってきたのにー」
「お前は大人しくポップンをしろ!!そして解禁に貢献しろ!!!」
「あー、アレが出るしねぇ。楽しみだわ」
「何の話をしているのだ、貴様らは。」
 
不意に不機嫌そうな声が混じったと思うと、中島だった。
コイツは低血圧なので朝はあまり覇気がない。
というか常にわりとテンションは低い。
 
「ポップンの話。あんたも解禁に貢献するが吉よ。」
「ああ、この学校にはポッパーしかいないからな・・・って違う。・・・・・・・・・・・・会長、例の件だが」
 
今まで寝ぼけ眼だった中島は、不意に真顔になった。
目がマジだ。
まるでスパイ映画の司令官みたいだ。
 
「ああ。・・・・・首尾はどう?」
「上々だ。明日にでも実行に移せそうだがどうする?」
「そうね・・・イケる時にイッとくのが世の常よね。作戦Aで行くわ」
「了解。と書いてラジャと読む。」
 
二人してわけのわからない話をおっぱじめたため、俺はそれを眺めるしかなかった。
何だ、一体。
作戦Aとか首尾とか、本当にスパイみたいだし、二人とも目つきが怪しい。
 
「な、何の話なんだよ・・・?」
「リュータにはまだ内緒。・・・と言っても、あんたにも働いてもらうけどね」
「はぁ・・・?」
 
何だか煮え切らない返答に、俺はますます疑問を深くした。
俺も勝手に関わらされているらしいから、何かをやらされるには違いないんだけど。
 
「リュータは一番いい役回りなんだぞ。僕なんて最低最悪だ・・・。」
「まぁがんばってよ。紙飛行機のためにも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」
 
また紙飛行機だ。
どうやら中島の弱点らしいが、一体何のことなんだか。
ツララが知ってるんだから、ツチノコ関連ではあるんだろうけど。
 
「あー、明日が楽しみね!」
「まだ今日という一日が始まったばっかりなんですけど・・・。」
 
 
 
純真がたくさん出てきました。
これからどうなるのかな。(かな。ってアンタ)
リュータは二人を守りきれるか!(何)


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