ツチノコエンヂニアリング
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おーい、リュータ。たまには一緒に昼飯食おうぜー」
 
昼休み。
オレンジ色の派手な頭と、それと対照的な純和風な黒髪の二人組。
が、俺のクラスまで弁当持参でやってきた。
その二人はまごうことなきジュンとシンゴで。
余りに突然の事態に、俺は咄嗟に反応できなかった。
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、オイオイ!」
 
ツララ!!
ツララがいるのにこの二人が来てしまったらどうにもならねー!
今朝の俺の苦労は一体何だったんだよ!!
 
「ちょっと待ってみなさん!!待ちましょうよ!」
「何言ってんだオメー」
「何言ってんのよアンタ」
 
動揺のあまりに意味不明なことをぬかした俺に、シンゴとツララはハモった。
同時に言われると心にきますよちょっと。
しかも何だか息ぴったりでどうしたもんだか。
・・・・・ってそうじゃない。
今の俺の使命は、純真をツララの目の届かぬ場所まで連れて行くことだ!
 
「お、お前らちょっと来い!!逃げれ!」
「え、ちょっとどうしたんだってば!!リュータ!」
「お前らの精神衛生のためなの!!平和な学園生活は俺が守ってやるから!」
 
そう叫んでドアまで二人を引きずって行こうとした俺を、ツララは片手で制した。
 
「ちょっとお待ち。アンタとあたしの間には、何らかの誤差があるようね」
「ない!!そんなものはない!だからおどき!!」
「だまらっしゃい。その二人は、もはやあたしのお友達なのよ」
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
ツララのその言葉が一瞬理解出来ず、俺はフリーズした。
お友達だって?
まさか。
いつの間にこいつらは接触したというのだ。
朝の時点では俺は接触を回避したはずだぞ・・・?
 
「そうそう。さっきの休み時間にね、廊下でジュンと遊んでたらツララちゃんが来たから、俺が何となく声を掛けてみたわけです」
「そうよー。今朝からこの派手な頭と黒髪のコンビが気になってたからちょうどよかったわ」
 
チャハ☆とか言いながら説明してくる二人に、俺はめまいを覚えた。
ちょっと待たんかい。
俺の苦労はマジもんの水の泡ですか。
コンビニに寄ってて遅刻しかけたのは一体何だったの!?
えー。
あまりの事態に、俺は思考回路がちょっとヤバくなった。
 
「でね、ツチノコ研究会のことを聞いてみたわけよ、この二人に」
「聞くな!!人を巻き込むなとあれほど言っただろうがコルァ!」
「だって友達は多いほうがいいじゃないのー。まァとにかくこの二人はもはや研究会のエージェントよ」
 
えっへん!とか言って、やたら誇らしげにツララはそう言い放った。
 
「そうそう。何か楽しそうだしー」
「みんなでツチノコ見つけられたら楽しいだろうし」
 
ジュンとシンゴは嬉しそうにそう言った。
えー。
そんなんでいいの、ちょっと。ねぇ。
 
「だ、ダメだって!!軽い気持ちでコイツに関わるな!」
「人を指差さないでよ!!アホ!」
「ギャアアアアアアアアアア!!」
 
ツララを指差してそう怒鳴ると、ヤツは俺の指をありえない方向へ曲げた。
人差し指がエビゾリどころかブリッジしてやがる!
 
「折れたらどうすんだボケェ!!」
「うっさい!!やったあたしのほうが痛いのよ!」
「んなわけあるかー!!」
 
そんなやりとりを見て、ジュンとシンゴ、ちゃんと背後にいた中島はおろか、クラス全員が笑い出した。
え、何、何なの?何かおかしい?
困惑する俺とツララに、シンゴが(笑いすぎで出た)涙をぬぐいながら言ってきた。
 
「お前らスゲーよ。夫婦漫才!」
「めおとぉぉぉ!!?何言ってんのシンゴくん!あたしの未来の旦那様は目がイッちゃってるウサギさんよ!!」
「お前こそ何言ってるんだコラ!!ウサオくんが実在してたまるかー!」
「信じてればウサオくんもツチノコも桃源郷もタンタンもMZDもいるのよー!!」
「めちゃくちゃ言うなー!!」
 
そこで再び笑いが巻き起こった。
今度は廊下のヤツらまで笑ってやがる。
 
「・・・・・・・・・・・・・・場所を移そう」
「・・・・・・・・・・・・・・そうね」
 
珍しく利害が一致した俺たちは、純真と中島を連れて、教室を飛び出した。
 
 
 
 
 
 
「まぁそんなわけで、俺たちは今日からお前たちの仲間でーす」
「そんなわけってさ・・・・・お前、ツララと関わって暗黒の青春時代を送る気か・・・・・?」
 
明るくそうのたまったシンゴに、俺はやや疲れながらそう言った。
本当にさ。
それでいいのか。
 
「失礼なヤツねー。あたしと一緒に青春すればいいじゃないの」
「そうそう。ただ同じ毎日を過ごすよりも、刺激たっぷりの毎日のほうが楽しいじゃんか」
「だったら男のシンクロとかジャズとか色々あるだろ。・・・ジュンはそれでいいのかよ?」
 
何だかえらく偏った言い方をした気がしなくもないが、ツチノコよりもよっぽど現実的じゃないか。
そんな俺に苦笑いしながら、ジュンは応えた。
 
「相方がこんな調子だし。俺は付き合うよ。・・・それに、何だか楽しそうだしね」
「ツララちゃんといれば退屈はなさそうだしー。ね?」
「それは保障するわ!!リュータなんかよりよっぽど理解あるわね、二人とも」
「悪かったな!!だったら俺は脱退するぞコラ」
「それはダメ。我が研究会は伝統を重んじるから」
 
伝統なんて、すべてにおいてふざけているとしか思えないこの団体で、何だかとてもマトモな言葉に聞こえる。
 
「・・・・・そろそろ喋ってもいいか。このまま終わるのはごめん被る」
「あ、ああ。ごめんな中島」
 
どうやらしびれを切らしたらしく、中島が久しぶりに喋った。
何だか久しぶりに声を聴いた気がする・・・。
 
 
「話がまとまったところで。明日の作戦について説明する。・・・・・会長」
「オッケー☆」
 
まとまってねーよ!!と怒鳴った俺を裏拳で沈めながら、ツララは満面の笑みで、どこから出したのか白い布をたすきがけにした。
というか、そのものずばりたすきだった。
そこには金色の字で、『本日の主役』と書かれている。
明らかに宴会グッズとしか思えないそれに、俺は困惑した。
作戦と宴会がまったくもって結びつかない。
何なんだ・・・一体。
 
「・・・・・何だよ、明日の作戦って。宴会でもするのか」
「バカねー!!違うわよ!あたしの目的はもっと崇高かつ大胆な」
「要するに生徒会長選に立候補するのだな」
 
ツララの言葉をさえぎって、中島はそう言った。
 
「そうよ!!仲間が増えた今がちょうどやり時よ!」
「待てよ!!まさかホントにリコールを企んでるのか?」
「違うな。少し状況が変わってきててな。現・生徒会長が留学するらしいのだ」
 
そういうと、自分も『ずれたメガネは捨てた』と書かれたたすきをかけた。
どこかで聞いたような言葉に気を取られながらも、俺はツッコミの精神は忘れない。
 
「まさか・・・だから次の生徒会長に立候補するのか、お前は・・・」
「当たり前よ!!学校を牛耳るにはそれが一番手っ取り早いんだから!」
「牛耳るとか・・・単に偉い人になりたいだけに聞こえるぞ」
「え?そうだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと・・・・・」
 
何当たり前のこと言ってんの?と言わんばかりに、ツララはきょとんとした顔をした。
俺は何だか頭が痛くなってきたよ・・・・・。
 
「だから明日は立候補を申請して、色々活動するというわけだ」
「わかった。それはわかったけど。・・・・・・・・・・・・本気かお前ら」
「ほんきー」
「すごいよツララちゃんー!!がんばろう!」
「偉い人の取り巻きになると色々おいしい思いも出来るしな。僕は賛成だ」
「俺も反対する理由もないし。」
 
俺以外のすべての人間がやる気満々らしい。
というか、俺より一日遅れで入ったジュンとシンゴのほうがよっぽど場になじんでるっていうのは、いかがなものか。
どうやら本気で俺の苦労は水の泡なようだった。
 
 



そんなわけで純真が加入しちゃいましたよ。
やったね。
でも恐らく二人なら大した障害にはへこたれない気がするので大丈夫ですよ多分。
思い切り泣いたり笑ったりしようぜ(くるりですか)
次はいよいよ生徒会長の云々です。


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