ツチノコについて本気出して考えてみた
俺は思う。
何でこんなことになったのだろう。
本当にわけがわからない。
「ちょっとリュータ!!ボーっとしてないで戦いなさい!」
ツララの怒号が聞こえてきて、俺は眼前の敵―――――校内の不良共―――――を見据えた。
まだらに染まった金色の髪に、ゆるい着かたの制服。
絵に描いたような不良の姿に、俺は思わずため息をついた。
「・・・・・・・・・・・はぁ。」
「何ため息なんてついてやがんだ、テメーはよ!!」
不良が怒鳴る。
俺だって怒鳴りたい。ツララに。
当のツララは、普段の倍は血色がよくなっており、お肌はツヤツヤピカピカである。
多分きっと絶対、ケンカ(というか乱闘)が楽しくて仕方ないに違いない。
俺は思った。
アホに付き合うとロクなことにならないと。
時間は遡って、昨日の放課後。
「じゃあ、作戦Aの説明をするわね。――――――ナカジ」
「御意。」
中島は懐からノートパソコンを取り出して、俺たちに画面を向けた。
どうでもいいが、どうしたらそんなバカでかいものが出せるんだ。
とは思うが、世の中は大人の事情とか、そういう知らなくていいことがたくさんあるのだ。
なので見なかったことにしよう。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、中島は教鞭で説明を始めた。
「明日の朝、生徒会執行部に立候補の申請を行う。その後、立候補者は好きに選挙活動を行っていいということになっている。」
「演説とか、ポスター作ったりとか色々ね。」
「僕の読みでは、今回の選挙の立候補者は10人前後だ。」
「だからいかにして票を入れさせるかが一番重要なワケよ。」
「入れてもらう、じゃなくて入れさせる、なんだな・・・。」
票をもらうのではなく、強制的に入れさせるのが目的らしい。
コイツは恐怖政治でもするつもりなのだろうか。
「当たり前でしょ。入れてもらうなんて考えじゃ、ナメられるのがオチよ。」
「おまけにこっちは転校したてだからな。それでいきなり会長に立候補などとふざけたことをぬかしているのだから困ったものだ」
「ちょっとナカジ。そのセリフは聞き捨てならないわ」
「おっと失礼。つい本音が」
「・・・・・・・・・・・・・あとで覚えてなさいよ。」
怖い顔で中島を睨めつけたツララは、気を取り直すように咳払いをした。
「ま、そんなわけで、今回あたしたちがやるべきことはただ一つ。」
「・・・・・何だよ、勿体つけないで早く言えよ」
「うるさいわね、こういうのには間っていうものが必要なのよ。・・・・・・・って違うわ。そう、私たちの目的は」
すぅ、と一際たくさんの空気を吸って、ツララは言い放った。
「校内のヤンキーをシメて下僕にして、その不良共を使って一般の生徒たちに票を入れさせるのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「だーかーらー」
「そんな恐ろしいことは二回も言わなくていいって言うか何考えとんじゃこのボケ!!」
「ボケぇ!?この作戦のどこがおかしいって言うのよ完璧でしょ!?」
「おかしいに決まってるだろ!!生徒を脅してどうするんだよ!恐怖政治でもする気かお前は!!」
とんでもないことをへーゼンと言ってのけたツララに、俺は怒鳴った。
これが怒鳴らずにいられるかってんだ。
「恐怖政治じゃないわよ。これも一つの手段なの。偉い人にはどこかでキタナイことをしないとなれないのよ」
「んなわけあるかー!!清き一票という言葉はキサマにはないのか!!!!!」
「ない!!」
「威張るなー!!」
「ワイロを渡すよりゼンゼンマシじゃない!!しかもあたしが会長になった暁には、不良共を更生させるプロジェクトが始まるのよ!」
「それだって暴力で黙らすんだろうが!!」
「話を聞かないヤツには愛のムチよ!!」
「バカ言うなー!!」
俺はいい加減頭が痛くなってきた。
叫んだせいで脳が酸素不足になっているのかも知れない。
頭痛で黙りこくった俺に、中島はここぞとばかりに口を挟んだ。
「気が済んだなら話を進めたいのだが」
「・・・・・・・・・・・・・・・中島、お前はいいのかよ」
「よくないが、いい。」
「どっちなんだよ!!」
「いちいち怒鳴るな。・・・・・会長が生徒会長になったら、僕は自然に副会長になるわけだ。会長は役員を指名できるからな。そうしたら今後僕の人生にプラスになるだろう?」
「お前は打算的だな・・・・・。」
「世渡り上手と言え。人聞きの悪い」
メガネを人差し・中指の両方で押さえながら、中島は(珍しく)笑った。
今流行りの『メガネ男子』の流れでいけば、コイツが会長に立候補したほうがよっぽど票が入るんじゃないかとも思うが、いかんせんコイツはNO,2のキャラだからな・・・。
本人もそのほうが好きなようだし。
「ま、とにかく明日はみんなで不良をシメましょう☆」
「あのさー、ツララちゃん」
「ん?なーに、シンゴくん」
そこで、今まで黙っていたシンゴがようやく口を開いた。
お、何だかこの作戦に異議を唱えたそうな感じだ。
思わぬ援軍の出現に、俺は密かに喜んだ。
ツララ・中島に俺・シンゴ。ジュンは争いごとは嫌いそうだから、こっちに入るだろうし。
多数決で、この作戦はナシになる!!
やった!!常識人はやっぱりいいな!
・・・・・・・・・・・・などと喜んでいたら、シンゴの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「不良をシメるったって、どれくらいやっていいの?俺手加減苦手なんだけど・・・」
「はぁ!?ちょ、シンゴ!お前、不良とケンカすんだぞ!?」
「あ、それは別にいいんだよ。ただね、俺はいつでも全力でいっちゃうから、一回キレたら手加減できなくて事が大きくなるかも知れないわけさ」
「シンゴくんて強いんだ?」
「中学時代にちょっとささくれ立っててさ。ケンカは日常茶飯事だったねぇ」
そういうとシンゴは何故か恥らうような顔をした。
その意外な過去に、俺は相方のジュンの顔を見る。
「・・・・・そうなのか?」
「らしいよ。俺は高校からの付き合いだから、詳しくは知らないけど。」
そういうとジュンは肩をすくめてみせた。
詳しく知る気は毛頭ないらしい。
「俺は今のシンゴを知ってればそれでいい。昔のことにはあんまり興味ないし、詮索する権利もないよ」
「お前は本当にいいヤツだな」
「それはどうも。」
「だからジュンちゃん大好きー☆」
「うわっくっつくな!!暑い!」
思わぬところで二人のあり方を聞いてしまったが、何だか羨ましく思う。
俺にとってそういう間柄のヤツといえば、いるんだかいないんだかはっきりしないしな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・などと思考を別のところに傾けても、明日の作戦が俺の双肩に重くのしかかる。
「何だかいい話を聞いてしまったわ。」
「うむ。」
感慨深げにほうじ茶をすするツララと中島は、何の不安もなさそうな晴れ晴れとした顔をしている。
無神経とはこういうヤツのことを言うに違いない。
「まぁ、とにかく明日は不良と戦うわけなんだけど。まず最初にケンカするきっかけを作らないと何も始まらないわ」
「何せ故意にケンカを引き起こすのは初めてだからな。そこで僕は考えた。これを見るがいい」
キーボードを電光石火の速さで叩いた中島は、わざわざ作ったらしいアホみたいなアニメをパソコンの画面に表示させた。
しばらく眺めていると、やがてどこにでもいるようなチンピラと、ギターを持った中島が現れた。
するとフラフラ歩いているチンピラの肩に中島がぶつかり、口論が始まる。
ケンカのシーンになると何故か画面は格ゲーのようになり、『CHINPIRA』と『NAKAJI』という名前が表示された。しかもわざわざ3Dを使う手の込みようだ。
堅そうなポリゴン中島がギターを使って『緋○流禁じ手 暴雨狂風斬』を、こっちも堅そうなポリゴンのチンピラにお見舞いしたところで、アニメは終わった。
「どうだ。すばらしい出来だろう?」
「お前、アホだろ。」
俺は即答した。
コイツがここまでアホだったとは思わなかった。
割と常識人だと思ってたのに・・・!!
「大体会社が違うだろ!!せめてラン○ルローズとかにしろよ!」
「仕方がないだろう。大人の事情というものだ」
「そうよ。それにカッコイイわ、ナカジ!!」
「だろう?」
「誇るなー!!」
得意げな顔をした中島に、俺は怒鳴る。
今日は怒鳴りすぎだと自分でも思ったが、腹が立つんだから仕方ないじゃないか。
というか俺が止めないと誰も止まろうとしないっていうのはどうなんだ、一体。
「そんなに怒鳴って、喉は平気なのか?」
「誰のせいだよ!!」
「会長」
「お前も同罪だー!!」
「まあ何にせよ、これはもう決定事項なの。アンタ以外みんな乗り気だし」
「そうだ。何より合法的に暴れられる。」
『合法的』という言葉に、やったね☆的なムードが漂い始める。
いやいやいや、ちょっと待て。
合法的だって?
・・・・・・んなわけあるか!!
どこの世界に暴れてオッケー☆とか言う校則があるってんだ!!
「何が合法的だ!!非合法に決まってるだろ!そんなことしたら立候補を取り消されるどころか退学だ!!」
「カタイこと言わないのー。校則は破るためにあるのよ」
「それに『好きに』選挙活動をして構わない、というお墨付きだ。」
「揚げ足取るなー!!好きにったって常識の範疇でやりやがれってことだろうが!」
「常識なんてあたしには通用しないのよー」
ついにそんなことまで言い出したツララに、俺は愕然とした。
ダメだ。
コイツには何を言っても聞く耳がない。
常識なんて言葉はこいつの辞書にはないんだ。
というかこの手段を使わなくても、どんなクソ汚い手段を使ってでも、コイツは生徒会長に就任するに決まっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は知らないかんな!!退学になりそうになったらお前らで何とかするんだぞ!」
「別にいいけど。大丈夫だって自信あるし。ていうかアンタ、そんなこと言って明日来なかったらぶっとばすわよ」
「嫌だ!!俺は行かない!」
「わがまま言わないの!!」
「わがままはどっちだ!!」
何だかものすごく理不尽な言葉に、俺は再びキレた。
絶対行かない。
行かないったら行かない。
何なら明日、学校もサボってやる。
というかこれ以上理不尽な目に遭うくらいならいっそ転校してやる!!
・・・・・・・・・・・・・・などと決意していた俺だったが、何故か今、目の前にいる不良のアゴに一撃をお見舞いしていた。
・・・・・・・・・・・・・・本当に、何でこんなことになったんだろう・・・・・。
せっかく学校サボって、見つからないように学校からも家からも離れた場所にあるゲーセンでポップンしてたのに、どこからか現れたハヤトに手刀を入れられ、気が付いたらツララが目の前にいた。
そして、現在に至る。
「行くわよ、助さん格さん!!こらしめてやりなさい!」
「誰が誰だかさっぱりわからんが、とりあえず一人あたま5人はやれ。」
「俺、格さんがいい!!」
「シンゴはどう見ても助さんだろ」
「えー。あの渋い魅力と同じものを俺に感じたりしないのー?」
「しないね。お前はぜーったいに助さんだね。」
緊張も何もなく助・格論争をおっぱじめたジュンとシンゴに、俺は吼えた。
「お前ら!!ちょっとはこの状況に困惑とか慌てたりとかしやがれ!」
「ダメですよ、ハチベエさん!!四の五の言わずに戦いなさい!ちなみに僕は弥七がいいです!!」
「誰がハチベエだゴルァ!!」
何で俺がうっかりなあの人なんだ!!ていうかお前(ハヤト)はあんなに渋い男は似合わない!・・・・・って違う。
そんなこと言ってる場合じゃない!!
「後で覚えてろよハヤト!!」
「僕は都合の悪いことは大体忘れますよー」
ハヤトのその言葉に耳を傾けつつも、俺は目の前に迫る不良共に向かって蹴りを入れた。

さらにどうしようもない方向へ向かうツララ・・・。
え、もうどうしようね。(山へカエレ)