英語で言うとTSUCHINOKO
「えー、まぁそんなわけで、今日からこのクラスで一緒に勉強することになった」
「まだあたしの話は終わってないのよ。何勝手に話を進めようとしてんのよ」
何事もなかったように場を収めようとしたハジメを、ツララと名乗った転校生は一蹴した。
コイツは目上とかそういう概念はないのか。
まぁハジメちゃんだから仕方ないような気もするけど。
「かいちょう・・・・・」
この世の終わりみたいな顔をした中島は、力なくうなだれた。
まぁ仕方ないと言えなくもない。
なんせ『東京ツチノコ研究会』だもんなぁ・・・・・。
「ナカジ、安心しなさい」
「何をだ、何を。」
尊大な態度を崩さずに、ツララは中島に向かって言い放った。
「あたしが来たからには、この学校自体がツチノコ研究会になると言っても過言ではないのよ」
「過言だ。過ぎた言い方だ。」
「早いところ、この学校の生徒会長にならなくちゃ!そしてあたしはジークと呼ばれるのよ!」
中島の言葉を無視して、ツララは目を輝かせながら天井を見上げた。
何でガン○ムなんだ。
わかった。コイツはかわいいが、真性のアホなんだ。
「生徒会長選挙は一学期に終わったから無理だ」
「ならリコールするわ。栄冠は私の頭上に輝くの!」
「リコールしたってポッと出の転校生に票が入るわけなかろう」
「あたしは正攻法に則って勝負する気なんて微塵もないわ」
「あなたの辞書に健全の二文字はないのか」
「おかーさんのお腹の中に置いてきたわ」
打てば響くように、中島の言葉に相対する。
口が達者な女だなぁ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず席に着いたらどうだ。話は後で聞く。」
「それもそうね。先生、話進めていいわよ」
「あ、そう?じゃあまぁ、今日からこの子はこのクラスで一緒に勉強すっからね。みんな仲良くするよーに」
やっとお許しが出たハジメは、別段気を悪くしたような様子もなくそう言った。
人間が出来てるんだかアホなんだか・・・。
「で、席はどうしようかね」
「あ、あそこがいいわ。」
ツララが指差したのは、中島の斜め前。
つまるところ、俺の隣の席だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って。マジか。
オイオイ。
この子の隣の席なんて、俺の平穏はどうなるんだよ、マジで。
掛け値ナシで俺の平和は遠いお空の彼方に消えていくじゃないか。
「じゃあリュータの隣な。」
俺の心中なんてこれっぱかしも考えていないハジメは、席順表に『ツララ』の字を書き足した。
待て、とも言えずに、俺は複雑な顔をするしかなかった。
「リュータ、中島、よろしくな、色々と。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うす。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」
俺たち二人は、肩に圧し掛かったものの重さに、押しつぶされそうだった。
放課後。
俺は何故か中島とツララと共に机を囲って昼メシを食っていた。(今日は午前授業)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に何でなんだろうな・・・・・・。
タローは部活で帰っちまったし。
逃げたら後が怖いような気がして、帰るに帰れないままに何となく流されてこうなってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで。あなたがここへ来た理由を言え。」
「え、単に転校しただけよ。前の学校は、あたしには合わなかったから」
中島の問いに、ツララは平然とした顔をしてそう答えた。
よくは判らないが、この性格が災いしたのだろう、多分。きっと。絶対。
「ま、まさかハヤトも!?」
「ハヤトは来てないわ。まだ中学生だからおいそれと転校できるわけないじゃない」
「ハヤトって誰だ?」
会話の中で見知らぬ名前が出てきたので、俺は口を挟んだ。
まぁどうせ『ツチノコ研究会』のメンバーか何かなんだろうけど。
「ハヤトはあたしの幼馴染みで、研究会の構成員よ」
「こうせいいん・・・」
まるで特殊部隊のような言い草に、俺は面食らった。
戦時中の怪しげな研究所みたいだ。
そんなことを考えていた俺の顔をまじまじと見ながら、ツララは興味深そうに質問をしてきた。
「時にリュータくん。何か部活とかやってるの?」
「え、別に何も。やりたいこともないし」
本当だ。
本当に何もする気がなかったから、俺は何の部活にも属していなかった。
我ながら枯れた高校生活だなぁ、と苦笑した。
「ふーん。じゃあ」
「!!待て、会長!早まるな!!」
「早まってなんてないわ。―――――――ねぇ、リュータくん」
青ざめた中島をよそに、ツララは上目遣いで(かわいい)、俺が最も聞きたくないであろう一言をさらりと告げた。
「ツチノコ研究会、入ってみない?というか入るがよいよ」
「い、イヤだ!」
(予想はしていたが)とんでもない提案を、俺は全力で拒否した。
一度でもそんな妙な団体と関わったら、ただでさえ真っ暗な俺の世界はドドメ色になっちまう!
「何で。ていうかここにいる時点でもう頭数に入ってるのよ」
「はぁ!?ちょっと待てコラ!俺は入るなんて一っ言も言ってないぞ!」
「そういう伝統なの。ナカジだってそうだったのよ。ねー、ナカジ。」
そういって中島に同意を求めるが、ヤツは人生の汚点みたいな顔をして、ツララから目を逸らした。
どうやらコイツもコイツで、とんでもない目に遭ってメンバー入りを余儀なくされたらしい。
「僕は単にあなたとハヤトが二人で土を掘り返してるところを通りかかっただけだ」
「あの時あたしと目が合っちゃったのが運のツキよ。全力で逃げればよかったのに」
「逃げただろう!それを足払いして止めたのはどこの誰だ!」
「ハヤト。」
「あなたも共犯だろうが!」
普段の中島からは想像もつかないくらいに激昂している。
というかコイツがこんな大声を出すところなんて初めて見た。
不謹慎だけどちょっと面白い。
「とにかく!僕の健全な学園生活を乱されるのはごめんこうむる。」
「あんたそれでもあたしの部下なの!?おとなしくツチノコ研究会の拡大に貢献しなさい」
「断る。転校してきてしまったのは仕方が無いからそこには目を瞑るが、ツチノコ研究会に関しては僕にもリュータにも関わるな。」
一見ひどい言い方だが、これくらい言わないと言う事を聞かなさそうだしな。うん。中島は正しい。
この一言が効いたのか、ツララは俯いてしまった。
ちょっと胸が痛む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナカジ」
「何だ。」
長い沈黙のあと、ツララはやたらと重い口調で口を開いた。
そしてぼそりとつぶやいた。
「・・・・・紙飛行機」
「!!!!!!!!!」
中島は何故かその言葉にひどく反応した。
紙ヒコーキが何だって?
何か秘密でもあんのか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リュータ」
「何だよ。どうしたんだよ」
先程までのツララと同じように俯いた中島は、不意に面を上げると、見たこともないほど輝いた瞳で、言った。
「一緒にがんばってツチノコ探そうな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はァ!?」
思ってもみない一言に、俺は驚愕した。
あまりのことに目の前が真っ暗になる。
ちょっと待って。待とうよちょっと。
「お、おま、お前、さっきまで関わるなって言ってただろ!?何だよいきなり!」
「ツチノコを探すのも何かと楽しいぞ?きっとお前も今にハマっちゃうぞ」
「ハマんねーよ!冗談きついぞ!!」
「冗談などではない。これは命令だ。」
「お前に命令される筋合いねーよ!俺は帰る!!帰るぞ!!!」
カバンを引っつかんだ俺は、建てつけの悪いドアに戸惑いながら、教室を飛び出した。
―――――――――――――――が、突然何かに足を取られて、その場に倒れこんだ。
何だよ一体!?
「ダメですよ、逃げるなんて。」
上から声がして、俺は反射的に天井を見上げた。
すると目の前には中学生くらいの男が立っていて、どうやらコイツが俺の脚を払ったらしい。
学ランを着ていて、来客用スリッパを履いている。――――――――ってそうじゃない。
何なんだコイツは。
何で突然見知らぬ中学生に足払いをお見舞いされなきゃいけないんだ。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、その中学生は諭すような柔らかい口調で、俺にとって絶望的な一言を、言った。
「あなたは今日から、我がツチノコ研究会のメンバーです。」
――――――――俺の平穏は、本当にお空の彼方に消えてしまったらしい。
またしてもしょうもない展開に・・・・・。
今回出そうと思った二人組が出せませんでした。
ツララの暴走はもうどうしようもないですね。(誰のせいよ)
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